2011年03月04日

悪質な違法派遣でわずか慰謝料50万円

今回はかなり長いですが、重要な話題ですので、全文紹介します。
以下、シジフォス 2011年3月1日のエントリーより
http://53317837.at.webry.info/201103/article_1.html

昨日に続いて、労働事件の判決・命令に関する話だが、こちらはどうしても納得がいかない。最初に毎日新聞の報道を紹介。

>東証1部上場のベアリングメーカー「日本トムソン」(東京都)の姫路工場(兵庫県姫路市)で請負や派遣として1〜5年間働き、契約更新されなかった20〜30代の男性9人が同社を相手取り、正社員としての地位確認と1人300万円の慰謝料などを求めた訴訟で、神戸地裁姫路支部(中村隆次裁判長)は23日、直接の雇用関係はなかったとして原告側の主張を退けた。一方で、偽装請負など違法な労働を長期間続けさせたとして、トムソンに1人50万円の慰謝料を支払うよう命じた。
 判決によると、9人は04年4月から08年4月にかけて請負や派遣の形で働いた。5人は06年8月に請負から派遣契約に切り替え、他の4人は最初から派遣契約だった。一方、派遣会社は09年2月、3月末での契約解除を通告。その後、兵庫労働局の是正指導を受けたトムソンが5カ月間の直接雇用を打診し、9人は有期契約を結んだが、期限切れ時に契約更新されなかった。
 中村裁判長は「トムソンに解雇権限がなく、賃金や諸手当も主体的に決めていなかった」などの理由で「黙示の労働契約」の成立を否定。一方で、原告は最長5年間にわたり、偽装請負などの違法に就労させられたと指摘した。原告らは判決後、「控訴も含めて戦う」と述べた。<毎日新聞 2011年2月24日 大阪朝刊>


「連合通信」によれば、この中村という裁判長は、「日本トムソンが原告らへの指揮監督権や配置・懲戒の権限を有していた」と認める一方、「採用への関与や賃金決定権、解雇権限」は否定。そのうえで、「違法な派遣契約であっても、特段の事情がなければ派遣先との労働契約は成立しないとする<松下PDP・最高裁判決>を踏まえ、黙示の労働契約は成立しない」と判断したという。この中村裁判長は、派遣・請負による地位確認請求を否定する判決を三菱重工、日本化薬と続けて出している。「赤旗」の報道では、「原告の男性(32)は『違法状態で働かされていた期間が50万円ですまされることに怒りを覚えた』といい、別の男性(37)は『これであきらめたら後に続く人たちに顔向けができない。これからもがんばっていきたい』と語りました。」というが、当然だろう。担当した弁護士は、以下の通りブログでコメントしている。また、併せてJMIUなどの原告団の「声明」も紹介する。

>日本化薬と日本トムソンの正社員化訴訟で判決(吉田竜一 2011-2-25)
 08年秋のリーマンショックを契機とする世界的な不況の中,わが国でも大量の派遣切りが行われ,数十万人の派遣労働者が職を奪われました。職を奪われた多くの派遣労働者は,偽装請負といった違法な状態のもとでの就労を余儀なくされながら,何の落ち度もないのに企業の都合で突然職場から放り出された人たちです。
 現在,派遣切りされた派遣労働者が派遣先に雇用責任,損害賠償責任を追及する訴訟が全国で約70件裁判所に係属しているところ,09年春,神戸地裁姫路支部に提訴した日本化薬と日本トムソンを被告とする訴訟は姫路総合法律事務所が中心となって対応してきましたが,本年1月19日,2月23日,この2つの事件で相次いで判決が下されました。
 結果は,日本化薬事件では雇用責任,損害賠償責任とも認められず,日本トムソンの事件でも雇用責任は認められませんでしたが,裁判所は,違法な状態で長期間就労を強いてきた日本トムソンに対し,原告全員に1人50万円の慰謝料の支払いを命じました。
 勝訴か敗訴かという区別をすれば,2件とも敗訴判決と言わざるを得ません。
しかし,09年12月に最高裁が松下PDP事件で派遣先の雇用責任を否定して以降,全国の裁判所で労働者側に厳しい判決が続いている中で,派遣先に損害賠償責任を認めさせることができたことは,ささやかではありますが,今後,派遣切りの裁判を闘っていくなかで展望を持たせてくれる成果といってよいと思います。ただ,判決後の記者会見で原告の1人が「長期間違法状態で働き続けさせられた対価が50万円に過ぎないというのは到底納得できない」と述べたとおり,この問題は,派遣先に雇用責任を認めさせることなしに抜本的な解決を図ることができない問題です。2件とも控訴し,今後,舞台は大阪高裁に移ることになりますが,奪われた尊厳と誇りを取り戻すために闘う労働者たちとともに今後も奮闘していきたいと思います。

>声  明                 
(1)日本トムソン姫路工場において「派遣切り」された労働者がJMIU日本トムソン支部に加入し、労働局の是正指導を得て直接雇用を勝ち取ったものの期間限定の雇用でしかなかったため、正社員としての地位確認などを求め提訴した裁判の判決が本日、神戸地裁姫路支部であった。中村隆次裁判長は、「雇用責任は認めない」が、日本トムソンの「違法の重大性」を認め「慰謝料1人50万円の支払い」を命ずる一部勝訴の判決を下した。
(2) 本裁判は、原告らの派遣について、労働者派遣法違反だけでなく職業安定法違反を兵庫労働局が認定したこと、松下PDP事件・最高裁判決(2009.12.18)が事前面接等の派遣先に採用への関与があった場合などには派遣先の雇用責任が生じる旨の判断を示したことを受けて、偽装出向、偽装請負、期間制限違反の違法派遣と、どの時点でも違法な状態下で原告らを就労させ、兵庫労働局からその是正を命じられるや、形ばかりの直接雇用を実現したものの僅か5か月で原告らを雇止めした日本トムソンに対し、雇用責任と不法行為責任を追求するものとして争われてきた。
(3)判決は、日本トムソンの採用への関与・賃金の決定権について認めない上に、指揮監督権や配置・懲戒の権限を有していたものの、解雇権限まで有していたわけではないとして、黙示の労働契約の成立を否定し、日本トムソンの雇用責任を否定した。
 しかし、一方で、出向・請負・派遣など短期間に雇用形態を変更してきたことは、違法状態を十分認識していたものであり、「原告らの5年超の長きにわたる違法な派遣労働下において就労をさせられた」という実態の「違法の重大性」を認め慰謝料の支払いを命じた。
(4)判決は、日本トムソンの「違法の重大性」を認めながら、雇用責任を認めず、原告の「正社員として働きたい」という切実な願いを否定するものである。日本トムソンの不法行為責任は認めたが、雇用責任を否定した判決を認めたのでは、「金さえ払えば労働者の首を切れる」との風潮が生じる事態も懸念される。
 私たちは、この判決に強く抗議して直ちに大阪高裁へ控訴し、正社員化を実現すべく奮闘するものである。現在、日本トムソンは過去最高水準の生産体制で業績はV字回復であり、約100億円の設備投資計画をも発表している。原告ら期間社員を解雇した姫路工場へは、主力の岐阜製作所からの配転で人員補充をしている。原告青年らを職場に戻すことを日本トムソンに決断させ争議の早期全面解決をはかるとともに、「正社員があたりまえの社会の実現」めざし労働者派遣法抜本改正など全国の仲間と連帯し、全力でたたかうことをあらためて決意するものである。
2011年2月23日

全日本金属情報機器労働組合(JMIU)/同 兵庫地方本部/同 日本トムソン支部/日本トムソン正社員化裁判弁護団/日本トムソン正社員化裁判原告団


しかし、どうしてもやりきれなさが残る。まず日本トムソンという会社の姑息さに憤りを覚える。5年以上という違法な長期派遣で働かせながら、「雇用の安定を図る措置を講じるように」との労働局の是正指導で、労働者を直接雇用したものの(ただし、賃金は大幅ダウンした)わずか5ヶ月の有期契約だった。当初、派遣元である「プレミアライン」との契約は、出向協定だった。それが、業務委託(請負)契約に変わり、最後は労働者派遣契約だったという。派遣元からの中途解雇通告に抗議し、労働局を訪ね、いったんは解雇撤回されたが、再度、雇い止めされたとの経緯はあまりにもズルい。この間、プレミアラインからは、「期間満了後、正社員とすることもある」と、更新が重ねられている。また採用時には「工場見学」などや事前面接も行われていた。しかし、裁判所は、あくまで「黙示の労働契約」を認めず、期間限定の直接有期雇用契約で判断した。

弁護団はこの判決前に地位保全の仮処分申立をしたが、神戸地裁姫路支部・大阪高裁とも棄却になった。今回の地裁判断や仮処分で雇止めを有効と判断した最大の理由は「日本トムソンが直接契約を締結する当初から更新は難しい旨を当事者、組合、労働局に説明しており、労働局もそのような説明を前提に日本トムソンの直接雇用案を受理したというものだ」とされている。しかし、弁護団が主張するように、そのような理由で雇止めを認めるのであれば、偽装請負などを行って労働局から是正指導を受けた多くの企業は、その場しのぎの短期の有期契約によって派遣労働者を直接雇用した後、最初の更新時に雇止めをして労働者を企業から放り出すことは確実であり、このような実質解雇を僅か数か月先延ばしにしただけの措置が、「雇用の安定」を図る措置とは言えない。これを認めた労働局も問題だし、会社のやり方は「是正指導」を実質的に無視する脱法行為だろう。

日本トムソンの仮処分の抗告審で大阪高裁は「有期契約に対する法的規制がない以上、労働局の是正指導に基づいて実現される直接契約を有期とするか期間の定めのないものとするかは当事者の自由」だと述べたという。前出の吉田弁護士の以下の提起は重要だと思われるので、最後に紹介しておく。

>西谷敏先生は、最新の労働判例(994号)に執筆されたコラム「労働法における脱法(的)行為」で、「最近、労働法分野で脱法行為や脱法的行為が目立っている」が、松下PDP事件の最高裁判決等、「問題は、判例がこうした脱法(的)行為に適切に対応しきれていないことである」、「そこでは、法規の形式的な理解や、契約形式と企業の形式的な取扱いを過度に重視する姿勢によって、脱法(的)行為が容易に見過ごされているのである。脱法(的)行為の効果的な規制のためには、法規の趣旨の実質的な理解を踏まえ、労働関係の現実、とりわけ、労働者が脱法的な使用者の提案を事実上拒否しにくい状況におかれていることを適切に洞察した法解釈が不可欠である。脱法(的)行為を禁止する立法的整備も必要となろう。いずれにしても、脱法(的)行為の放任が労働法上の法規と判例法理の空洞化を進めていることに、もっと危機感を持つべきではなかろうか」という指摘をされておられますが、西谷先生の指摘されるとおり、非正規雇用の問題の抜本的解決を図るためには、企業の脱法行為は許されないという視点で、立法闘争と裁判闘争を車輪の両輪にした闘いを全国の労働者、労働組合が連携して展開していかなければなりません。

今回の判決文は最後のページで日本トムソンの出向→委託→派遣切り替えをすべて偽装・違法とするなど、重大な違法性を厳しく判断しているにもかかわらず、たった50万円の慰謝料としたことが、次の大きな怒りである。また、JMIUの正社員組合もあることから、正社員化=正組合員化をはかることを嫌った不当労働行為であることも十分考えられるが、残念ながら疎明しきれなかったのも残念だ。JMIUトムソン支部の正社員組合の努力を高く評価しつつ、さらなるエールをおくりたい。
posted by Proofreader X at 23:37| 東京 ☀| Comment(0) | お知らせ・ご案内 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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