2010年10月24日

企業不正是正のために結成された大鵬薬品労組

9月18〜19日、徳島市で第31回全国地区労交流会が開催されたことを、川副詔三さんが編集長を務める『地域と労働運動』120号が詳報している。総評が「地域労働運動を強める全国集会」を開催していた時期から、関東の4県地区労交流会として開催していた交流会が、連合結成・総評解散に伴い、全国のほとんどの地区労が解散するなかでも、大きく拡がり、地域労働運動の旗を掲げ、継続している取り組みに敬意を表したい。とはいえ、潮流の問題もあったのか、自分は一度も参加したことがなかったし、呼ばれた記憶もない。しかし、いわば地区労時代の同志であり、すぐ顔を思い浮かべる方も多い。今回も、開催地区労を除いても全国20以上の地区労から100名以上の皆さんが参加されたと思う。『地域と労働運動』には、今回の徳島集会における特別報告「労働組合の社会的責任−大鵬薬品労組からの報告」と第七分科会「地域労働運動の過去・現在・未来」についてのみ、川副さんが詳細にレポート・提起している。この冊子では川副さんの熱い文章にいつも敬服するのだが、残念ながら、最近は自分も出不精になりお会いすることが少なくなった。「少数派労働運動による労働運動変革」を訴える川副さんと、自分とはだいぶ立ち位置が異なるのにと、疑問に思われるかもしれないが、問題意識は当然ながら共通している。

さて、今回『地域と労働運動』誌上で感銘を受けたのは、地元徳島の大鵬薬品労組の闘いである。報告されたのは元副委員長の北野さんだが、研究労働者としても会社が製造・販売しようとしていたリウマチの治療薬である「ダニロン錠」に反対した。1981年当時、研究・検査結果で発ガン性などの危険性が高いとのデータがあったにもかかわらず、会社はデータを隠ぺい・改ざんし、厚生省に認可を求めていた。多くの社員が会社に圧殺される中で、北野さんたちはダニロン反対のために労働組合を結成し、ついに葬ったという。日本の労働組合史上、極めて異例な組合づくりであり、特筆に値する。その後の会社による組合弾圧攻撃に関しては聞いたことがあるが、最後に全面的勝利を収めた段階で組合員は7名に減少してしまったという。

労働組合の大きな役割のひとつに「企業不正の是正」がある。多くの企業が相次いで不正をはたらき、社会的に糾弾されるなかで、企業自体も危機におちいっていく中で、何度、連合の会議で謝罪の言葉を当該産別の責任者から聞いたことだろう。不思議だったことは、他の出席者が不思議にあたたかったこと。許し難い不正であり、さらに糾弾されなければならないのに、まるでばれてしまったことに同情する雰囲気があった。不正はどこの会社も共通にあり、社員組合(企業別労組)たるもの、会社と一心同体となって、隠すことを当たり前としている労働組合体質であってはならないが、正社員自らが生き残るためには、不正に荷担せざるをえない体質…企業別労働運動を続けるかぎり変わらない宿命ともいえる。しかし、少なくとも「いのち」や「安全」に係わる問題については絶対に労働組合の存在をかけて主張し、是正させなければならない。これは派遣や下請・関連労働者の雇用という「いのち」についても同様なのだが…自分が生き残るためには、他者の「いのち」を犠牲にしてもかまわない、との意識があふれかえっている。北野さんのこんな言葉が紹介されている。

>「全人格を否定されるような状況で人間の醜さ、特に差別する側の人間の汚い顔を見続けた。組合を辞めて社員が会社側に立ったその証として、先頭に立って暴力をふるってくるという人間の弱さも見た。先が見えない闘いが無限に続くようだった。」

残念ながら、労働委員会という場所は、毎日その醜さを見せつけられる。しかし不思議に、屈せず挑み続ける限り、最後には解決する。過去が幻だったかのように、明るい職場になった姿も何度も目にした。やはり、未来に希望をもちたい。人を変えられるのも、本来、労働組合というシステムがもつ役割だということを信じたい。川副さんと異なり、自分は多数派をめざす労働運動を志向し続ける。

シジフォス 9月29日付
http://53317837.at.webry.info/201009/article_28.html
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2010年10月05日

派遣法改正反対のための意図的なアンケート

9月28日の日経朝刊に以下の不思議な記事が載っていた。

>派遣社員、政府の規制強化に5割超が「反対」 東大調査
 東大社会科学研究所は27日、請負・派遣社員の働き方に関する調査結果をまとめた。政府が10月召集の臨時国会への提出を目指す労働者派遣法改正案について、派遣社員の55.3%が「反対」と答えた一方、「賛成」は13.5%にとどまった。派遣規制を強化すると働き先を失いかねないという派遣社員の不安心理を映した結果とみられる。
 調査は請負・派遣社員4千人を対象に8月に実施し、56.9%から回答を得た。
 労働者派遣法改正案は、仕事があるときだけ働く「登録型派遣」や製造業派遣の原則禁止などが柱。調査によると、反対理由のうち「禁止しても正社員の雇用機会は増えない」が69.5%とトップ。「派遣で働けなくなる」が65.9%と続いた。賛成理由のトップは「派遣は雇用が不安定」で83.2%を占めた。
 同案が施行された場合に失業する可能性があるか、との問いには79.1%が「ある」と回答。同研究所は「派遣禁止が失業リスクを高めると考える派遣社員が多い」と分析している。


どう考えても、派遣労働者の声とは異なるアンケート結果であり、しかも派遣法改正への再チャレンジの前に意図的に報道された匂いを感じる。特に日経は、時々こういうことを行う。調べてみると、東大社研といっても「人材フォーラム」というセクションの調査であり、調査の目的も「生産現場で派遣社員や請負社員として働く人々の就業実態とキャリアの現状と課題、さらに労働者派遣法改正による製造派遣禁止に関する評価などを明らかにすること」とされている。調査の実施方法も「@日本生産技能労務協会の会員企業を通じて調査票の配付を依頼し、調査対象者が調査に回答したのち、調査対象者が調査票を東京大学社会科学研究所宛に投函する方式で実施した。A 4000人を調査対象として、従業員規模に応じて各企業の調査対象者数を割り当てた。B 工場で生産業務に従事している請負社員・派遣社員を対象として、管理のみを担当している社員は調査の対象外とした。調査の実施方法では、取引先の職場の最小の管理単位( 例えば班、グループなど) を選んで、その管理単位の下で働いている請負社員・派遣社員の全員に調査票を配付することを原則とし、特定の人だけに調査票が配付されないように留意した。」とされている。要するに、廃止対象とされている製造業派遣に従事している派遣・請負労働者にアンケートをとっているわけで、そうであるならば、上記のようなアンケート結果が出ても不思議ではない。しかし日経記事からは、そんなことは読み取れない。なお、調査概要のポイントは以下の通り、記載されている。これも、実に誘導的だ。

>請負社員・派遣社員の働き方とキャリアに関するアンケート調査結果概要― 労働者派遣法改正の評価と今後のキャリア希望を中心に ―
@ 正社員やパート・アルバイト等としての就業経験があるものが多く、収入や「ものづくり」への関心から現在の働き方を選択。
A 仕事満足では、仕事の内容や労働時間、人間関係の満足度は高いが、他方で、処遇や雇用の安定性、今後のキャリア見通しへの満足度は低い傾向。
B 製造派遣禁止に関する意見では「反対」が半数強。
C 労働者派遣法の改正は失業をもたらすと認識。
D 今後希望する働き方:当面では正社員希望は少ない。
E 働いている工場からの正社員採用へは応じるものが多いものの、そうした提案の可能性はほとんどないと認識。


報告書を読んでみると不思議なのは回答者の属性で、請負社員が46.3%、派遣社員が32.8%、就業形態を「わからない」とした者20.1%となっている。また有期契約56.0%、期間の定めの無い者34.3%、「わからない」8.6%。さらに「役職のない現場社員」が59.2%、「リーダー・管理職」が24.8%もいる。さらにつくられたアンケートの匂いがしてきた。特に、なぜ派遣・請負社員として働いているのかその理由を尋ねると、実に不思議な記述が記載されている。

>「正社員に限らず他に仕事がなかったから」( 37.7% )、「正社員として働ける会社が請負・派遣会社以外になかったから」( 28.7% ) 、「より収入の多い仕事に従事したかったから」( 19.7% ) 、「ものづくりの仕事に興味があったから」( 18.0% ) といった理由を挙げる割合が高い。就業機会が限られる状況の中で、相対的に収入の高い働き方として、あるいは「ものづくり」への関心から、生産業務の請負・派遣社員としての就業を選択している者が少なくない。

馬鹿馬鹿しくなったので、これ以上記述するのは止めるが、最後に1点だけ面白い回答があったので紹介する。前述の概要のDの理由なのだが、なぜ正社員を希望しないかというと「賃金など労働条件が低下する」からだという。
どんな職場かは想像がつく…。
最後に最近愛読している野川忍先生のツイッターから昨日のつぶやきを紹介。

>(1)労働者派遣制度は、もともと職安法44条により刑罰をもって禁止されていた「労働者供給」のうちの一形態を、厳格な条件付きで合法化したという経緯があります。もともと「決してしてはならない」とされている形態を解禁したのですから、条件が厳格であるのは仕方ないですね。
(2)もし、労働者派遣制度をもっと自由なものにしろ、というのであれば、その出自である職安法上の「労働者供給」そのものの自由化を考えるべきでしょう。しかし、有料の労働者供給は要するに「人身売買」の変型だという事実も直視すべきでしょう。
(2)労働者派遣をもっと自由化すべきであるとの主張は、根幹にある労働者供給制度の自由化につながることになります。しかし、「労働力を金で他人から買い取り、雇用者責任は一切負わずに好きなようにこき使う」ことは、「人身売買」の変型を意味するので労働者供給は禁止されているのです。
(3)その労働者供給の一類型である労働者派遣を、さらに自由化することが躊躇されるのは無理のないところです。もちろん、逆にさらに厳格化することが妥当か、は別問題です。現在議論されている派遣法改正は、このような観点からその妥当性が評価されるべきでしょう。


シジフォス 9月30日付
http://53317837.at.webry.info/201009/article_29.html
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