2010年08月28日

伝承されない技術。製造現場だけでなく医療でも。(日経ビジネスオンライン)

伝承されない技術。製造現場だけでなく医療でも。
臨床検査技師の25歳女性のケース


小林 美希  


 一般企業では若者の非正規雇用化が進み、雇用が崩壊した。そうした雇用崩壊の前兆には、働き方の小さな変化がある。これまで安定した就職先と見られていた病院職場も、一般産業と同じ道を歩みそうだ。そんな病院職場の崩壊の前兆が、臨床検査技師の非正規雇用化に垣間見える。

 藤田真希さん(仮名、25歳)は都内の大学を卒業後、有名私立大学病院に臨床検査技師として就職した。ところが、新卒採用にもかかわらず、嘱託社員という雇用形態だった。雇用の期限は3年が上限となる。初任給は月18万円弱。ボーナスは年に約6カ月分、ほか住宅手当が月2万数千円支給される。

「ここは刑務所のようだ」

 真希さんは就職活動でいくつかの病院の採用試験を受けていた。ほかの私立大学病院は正職員採用だが、初任給が月25万円でボーナスはなし。ある民間病院では正職員採用で月20万円にボーナスが年に3.8カ月。比べると、正規か非正規かの違いのほかは、就職先に決めた病院が勝っているように思えた。真希さんは「何より、技術を学ぶことができる。最初は正職員でなくても門戸の狭い大病院への就職はチャンスではないか」と就職を決めた。

 病院では新卒検査技師の採用は数年ぶりだった。採用面接の際に、「嘱託って何だろう?」とも思ったが、理事長は「入職してもすぐに辞める若者も多い。就職する側も病院を見極めるために嘱託で働いてみて、3年経ってから本当にここで働きたいか決断してもいいのではないか」という採用の考え方を説明した。同期はすべて嘱託職員。直属の上司も「真面目にやっていれば、正職員になれる」と常に言っている。

 3年後は正職員登用されるか、自ら選択して辞めるか−−。この条件は見ようによっては、この病院での勤務や職業そのものの適正を判断できるとあって、真希さん含め新卒採用された同僚は「自分たちにもメリットがある」ように感じていた。

 仕事が始まり、採血の担当となった。真希さんは「神経を傷つけてしまったらいけない」と、毎日、ミスしないようビクビクしながらも懸命に仕事を覚えていった。新人検査技師として緊張して夜も眠れない日々が続いた。入職1年目、残業は夜9〜10時まで恒常的に続いたが、時間外手当の申請はできずサービス残業が続いた。

 月3回ほど当直に入ると、「ここは刑務所のようだ」と思ってしまう。薄暗い窓1つない埃だらけの当直室は3畳ほどのスペースで、布団を敷いて2時間おきにほかの当直検査技師と交代して休憩する。当直の日は夕方5時から深夜0時までとなるが、当直明けはいったん帰宅してまた出勤。通常の日勤(午前9時から午後5時)に入る。

 「私はまだ20代だからできるけど、60歳の人でも同じように当直に入っていて、辛いはず」と思えてならない。当直手当は1回約2000円。医師や看護師なら1回1万円の手当がつくため、どうしても比べてしまう。

 1年目は「ミスなく仕事する」を第一に心がけた。ところが、だんだん仕事に慣れてくると、モチベーションを高く維持することが難しくなった。2年目は毎日1000人もの外来・入院患者の血液検査を担当するようになり、検体によっては数値を見ると「ああ、救急搬送された患者さんだが、もう亡くなっているかもしれない」ということも分かるようになってきた。

 ただ、常に検査室に閉じこもり、患者と接することもなく、大組織の一部として淡々と仕事をこなすため、ほかの検査の技術を身につける機会がないことが心配になってくる。大先輩には、誰も採血できないような血管の細い患者が来ても、1回で採血できるスペシャリストがいる。そうした熟練技術に敬服する一方で、流れ作業のような仕事の与えられ方に「このまま、ここにいていいのだろうか」と疑問を感じるようになってきた。

 これはまるで、工場の生産ラインの請負・分業化と似てはいないか。非正規雇用でパーツごとに仕事をさせれば経営的には効率がいいが、労働者は仕事の全体像を把握しないまま部分的な仕事をすることになり、スキルが向上せず、次の就職先を見つけづらくなった過去の失敗が、医療の現場でも起こりつつある。これでは、結果的に医療の質が落ちることになりかねない。

人材が定着しない職場

  現在、病院ではコスト削減のため、検査業務のアウトソーシングが進んでいる。外部委託の方法として、(1)一部の検査を除いて院外の検査センターに委託する「外注方式」、(2)検査技師や検査室のスペースは病院が提供するものの、分析装置などの設備、薬品などランニングコストは委託先の検査センターが負担する「FMS方式」、(3)受託先が院内に検査室を設け、人件費などのコストをすべて請け負う「ブランチラボ方式」、がある。ただ、委託の場合、委託先の検査技師の違法な宿日直が横行したり、適時適切な検査が行われにくくなったりするなど問題視されている。日本医療労働組合連合会では「『ブランチラボ方式』や『FMS方式』は、臨床検査に対する医療機関の責任を希薄にし、その主体性と専門性を損なう」と指摘している。

 前述した病院で働くベテラン検査技師は「若手が非正規雇用化して人材が流出しては、技術の伝承ができない」と嘆く。団塊世代の検査技師が次々と定年退職で辞めていくが、新人の補充がなく、やっとのことで入った新人は「嘱託職員で3年が上限」という条件。派遣社員の問題と同様、直接雇用ではあっても非正規雇用では、労働基準法によって有期労働契約は3年が上限となっているため、仕事に慣れてきた頃に雇い止めとなることが危惧される。

 ベテラン検査技師が新人に「3年後は心配ではないか」と尋ねると、「それまでにほかを探すしかない」と諦め顔だったという。何か不安を感じていても「それを職場で口にしたらクビになる」と、沈黙を守っているようにも見えるのだ。

 検査技師は、救急患者が搬送されれば、輸血用の血液を手配し、患者に適合するか何度もチェックする役割もある。手際が悪ければ患者は死に至るケースもあり、緊迫した中で看護師らと連携する。ところが、この病院では看護師不足でダブルチェックができず、検査技師への責任は増している。

 また、この病院では、看護師が過重労働ですぐに辞めてしまうため、4月の年度初めでも募集しきれず職員の定員に満たない状態という。非正規雇用は検査技師だけでなく、外来の看護師はほとんどがパート。病棟では大部屋が今までは6床配置されていたが、入院患者を増やそうと同じ部屋に無理やり8床入れているため、ベッド間の距離が20センチメートルしかない状態で、患者同士の感染も心配だという。

 労働組合が団体交渉をしてベッド数の削減を求めたが、経営者側は受け入れない。検査技師の非正規雇用化の問題についても、病院側は赤字を理由に突き返した。

 1年以内に若手技師の4分の1が辞めていき、募集をかけてもその穴は埋まらない。真希さん自身は「3年経てば正職員になれると上司も言うので、心配はしていない。ほかの有名な私立大学病院では嘱託期間が過ぎたら100%“クビ”になるとも聞いているから、自分の労働条件が悪いとは思わない」と話すが、経営状況いかんで、非正規雇用はあっさりと切られやすいことは、これまでのほかの産業の例を見ても予見可能なことだ。

 東北地方のある自治体病院では、数年前から放射線技師の危険手当がカットされた。地域の中核病院としての機能を持ち、周辺の中小病院からレントゲン検査などの委託が増えているにもかかわらず、人件費は削減傾向にある。また、東海地方の民間大病院の放射線技師も「自分が働き始めた10年以上前の時点から危険手当などなくなっていた」と話す。常に放射線の被曝や薬品からの暴露、患者からの感染などリスクの高い職業への保障すら削られている。

ツケはすべて国民に回る

 今年度、診療報酬は引き上げられ、現在、高齢化などによる医療費の自然増の分も認める動きが出ている。しかし、これまでの医療費削減政策や利益を求める経営への転換が政策的に行われたため、病院は人件費削減を余儀なくされてきた。その結果、外来の看護師のパート化や検査のアウトソーシング、検査技師の非正規雇用化などが全国で広がっている。

 しかし、医療を担うのはあくまで人材であり、デスクワークとは違う医療安全を守る職種に、不安定な非正規労働が蔓延し始めていることの意味を改めて考えなければ・・・。ツケはすべて患者、すなわち国民に回ることになる。医療従事者の労働条件を改善できる仕組みを作る必要がある。

 真希さんは「政治が医療従事者に対して冷たい気がする。先は暗い」と思えてならず、これから先の働き方について悩みの中にある。


日経ビジネスオンライン 2010年8月9日付
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100806/215733/?P=2
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2010年08月25日

「仕事の本質」第1227号 “「社会」と「会社」の共存”

人が“会社”とか“役所”という組織に入ると、基本的に従うべきルールや規範の中心は、“会社”や“役所”という“組織”になります。
“社会”以上に“組織”を見ることになり、とにかくほとんどが“組織”を基準とした判断をするのです。

会社では、自動車メーカーがリコールを隠す、食品メーカーが消費期限切れの材料を使用する、外国産なのに、“国産”と食品表示を偽る、

役所では、行ってもいない出張なのに、出張旅費を請求する、公費を私的に流用する、

などなど、これは社会的な犯罪行為だったり、詐欺行為ともいえることを、“会社”とか“役所”という組織に入ると、たとえ“社会的”には常識的な人でもそういう行為に染めてしまうのです。

しかも、それに対して悪意も自覚もはない、「会社のルールや規範に従っているのに、なぜいけないんだ!」くらいに思ってしまうのです。

だから、特に“会社”という組織に入ってしまうと、最優先すべきは“会社の利益”となり、上司も、そのまた上司もそれを望むし、自分自身だって出世を望むから、会社全体が“社会的ルールや規範”よりも、“会社の利益”を優先してしまう風土が構築されてしまうのです。

こういう日本の会社の現状を見て、ソフトブレーン株式会社の創業者の宋文洲氏は、その著書『ニッポン型上司が会社を滅ぼす!』の中で、次のように述べています。

 自覚のない悪事は改められません。
 再発もしやすいのです。
 私たちは組織に入り込むと、
 大義をないがしろにし、
 小義を優先させがちなのだ、
 という自覚をもつこと、
 意識していないと
 自分も知らず知らずのうちに、
 悪事を働く可能性があることを
 肝に銘じておくことが重要
 なのかもしれません。

私は社労士開業前は、製造業のサラリーマン。

在職中は、“社会的ルールや規範”よりも“会社の利益”を優先させて仕事をしていたかもしれません。

工場に勤務していたときなどは、例えば製造部門の女性が出産を控えている、というとき、「育児休業をとって、復帰して仕事を続ける」という選択肢をとらないように、出産をきっかけに「退職」を考えてもらうような働きかけをしたり、受注の増減にすばやく対応し、そして製造コストを下げるために製造派遣を入れ、実際に受注が減少したら、有無も言わさず契約を解除したり、

それも当時は“会社の利益”のため、それに貢献して、自分の立場を上げていきたい、そのために、社会的規範を二の次にしてきたのです。

多くの会社では、私と同じように“会社の利益”を優先させていたのでしょう。

こういう姿勢が、少子化に拍車をかけたり、“派遣切り”に見られるような雇用不安を生みだしたり、社会的な問題を発生させ、その結果会社だってなかなか業績が回復しない、ことにつながっているのです。

もう“会社の利益”のみを追ってはいけない、それは回りまわって、結局は会社にとっては不利益になります。

だから“社会的規範やルール”と“会社の利益”を共存させていくという視点をもち、それを実行していこうとすること、これがとても大切なのです。


メールマガジン 「日刊! “信頼の社労士”が思う、「仕事の本質」」より
http://profile.ameba.jp/oda-sr/
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2010年08月18日

日亜化学請負問題:JMIU、県労委と日亜を提訴 /徳島

 全日本金属情報機器労働組合(JMIU)は16日、日亜化学工業(阿南市)が不採用としたJMIU所属の元請負労働者6人の不当労働行為救済申し立てを棄却した県労働委員会に対し、取り消しを求める訴訟を徳島地裁に起こした。

 訴状によると、JMIUは07年12月、県労委に救済申し立てを行ったが09年8月、県労委は「会社には請負労働者に対する雇用契約申し込み義務が発生していない」などとして棄却。これに対し「会社側に不当労働行為意思がある」としている。

 県労委の笹谷正廣会長は「公平・中立な立場で審理を尽くし、適切な判断したと考えております。今後、訴訟の中で適切に対応したい」とコメントした。

 また同日、JMIUと元請負労働者6人が、偽装請負状態で働かされたなどとして、日亜化学工業を相手取り、地位確認と賃金請求など約5600万円の損害賠償を求める訴えを同地裁に起こした。

 訴状によると、03年6月〜06年12月に日亜工場で勤務していた6人は社員の命令下、偽装請負状態で勤務。「05年3月1日時点で労働契約が成立している」として地位確認を求めた。職場は06年12月〜07年6月に廃止され、採用試験でも全員が不採用。「精神的に大きな苦痛を被った」と慰謝料の支払いも求めている。JMIUは「不採用は団結権を侵害し、重大な無形の損害を被っている」とした。

 日亜側は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。【山本健太】


毎日新聞 2009年12月17日 地方版
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